地区防災計画について

NPO法人まちの防災研究会 理事長 松森和人

 

そもそも地区防災計画とは

 平成25年、政府は災害対策基本法(以下「災対法」)を改正し、「第3章 防災計画」に「第42条の二 地区防災計画」を加えました。以下が法文となります。

 

  地区居住者等は、共同して、市町村防災会議に対し、市町村地域防災計画に地区防災計画を定めることを提案

 することができる。この場合においては、当該提案に係る地区防災計画の素案を添えなければならない

 

 これだけだと一体何のこと?となるので解説します。

 

 地域の居住者等が、「自助・共助」の精神に基づき、市町村等と連携して行う自発的な防災活動を促進し、ボトムアップ型で各地域の特性に応じて、コミュニティレベルで必要となる防災活動を計画としてまとめ、これを地区防災計画として市町村地域防災計画に定めることを市町村防災会議に提案できる。

 

こういう趣旨でこの法文が追加されたのです。これまで災対法 第3章 防災計画 には、行政の防災に関する計画しか法規定されていませんでしたが、居住者が作成する計画は初めて組み入れられたのです。では、その背景を少し説明します。

 

行政防災の限界と「自助・共助」による活動の重要性拡大

 阪神淡路大震災を経験して、行政主体での防災には限界があり、居住者自身による防災の取組の必要性が訴えられるようになり、「自助・共助・公助」という考えが取り入れ、この時から「自主防災活動」を進めるようになりました。

 自主防災活動とは、「自主」という言葉の通り「はい、私が防災活動やってもいいです!」と手を挙げた人たちで取り組む防災活動です。阪神淡路大震災が起きた頃は、現代ほど災害は頻発しておらず、住民による活動はそれほど重きは置かれてはいなかったのです。

 

■災害の多発化と行政防災の限界

 これまでの日本の防災は、行政が主体となって計画され実行されてきました。しかし、毎年発生する重大災害に対し行政はあの手この手とソフト対策を打ち、災害に立ち向かいましたが、住民自身の防災意識はなかなか高まってきませんでした。そんな中、東日本大震災が発生したのです。政府も沿岸自治体も、津波地震を警戒し確実に避難を実行するよう、懸命に啓発活動を実行してきたのですが、政府が想定した犠牲者数の7倍を超える犠牲者が発生してしまいました。この最大の要因は避難率の低さです。それは言い換えると「住民の防災に関る意識(関心)の低さ」ともいえると思います。これを変革しない限り、被害を止めることはできないことを突き付けられた災害だったのです。

 

■もっと住民による主体的な防災活動を

 これまでのように自主的集まって人たちでの防災活動は、全てとは言いませんが多くの場合、防災が好きな人たちが集まって、自分たちがやってみたいことを中心の活動を実行するパターンが多いと実感します。これでは一部の関心のある人にしか関心は持ってもらえず、多くの住民の防災意識を高めることにはつながりません。そこで考えられたのが、多くの住民が主体的集まり、自分たちの地域の適した防災活動を、どの様に実行していくのか、みんなで議論(ボトムアップ型)して計画(地区防災計画)を作成し、当該する市町村防災会議に地域防災計画に定めるよう提案できるとしたのが「地区防災計画」の制度です。提案を受けた市町村防災会議は、その計画が多くの住民の理解を得られたものか、計画の実行性はあるのかなどを審議し、承認されると当該する市町村地域防災計画に組み入れられることになります。このことで、当該市町村もその計画を策定した地域と協力し合って、地区防災計画の実行を進めていくことになります。

 

なぜ「計画」なのか

 この点については、あまり解説されていません。しかし、私はこの制度を知って大変意義あることだと賛同しました。それにはいくつかの理由がありますが、最も解りやすく説明された名言があるので、それを紹介しようと思います。

 

幕末の思想家「吉田松陰」が残した格言です。

 夢なき者に 理想なし

 理想なき者に 計画なし

 計画なき者に 実行なし

 実行なき者に 成功なし

 故に 夢なき者に 成功なし

 どのような地域にしたいのか、どの様な安心できる「防災まちづくり」を目指すのか、夢と理想を掲げ、その思いをもとに計画を話し合い立案し、少しづつでも実行していくことで掲げた夢にたどり着ける。

 だから計画づくりは重要なのです

 

しかし、地区防災計画づくりがなかなか進まない

  地区防災計画制度は、とても意義あることです。しかし、令和3年4月1日現在で計画を策定した地域は全国で2030地区です。福井県は、私が策定コーディネートをさせていただいた敦賀市北地区だけでした。ちなみに石川・富山も各1地区だけです。

 この進まない大きな要因は、「ボトムアップ型」がネックになりっています。ボトムアップということは多くの住民が参加して協議をすることです。町内会などの地域社会で物事を決定する方法は、事務方が準備した、ある程度完成された内容を提示して決定する方法が主で、最初から最後までワークショップや話し合いで作り出すボトムアップ型には慣れておらず、この作業はかなり無理があります。その為、このような会議の手法に長けたコーディネーターに依頼する必要性が出てしまいます。 

 

 その為、私が計画策定の支援してきた経験をまとめた「地区防災計画策定のための実践虎の巻」を作成していこうと考えております。現在は助成団体に、製作費用の助成を申請段階です。

 

それも少しづつ策定する値が増えています

 現在、私は高浜町和田地区および坂井市磯部地区で、地区防災計画策定の支援を行っています。両地区とも2023年12月までには計画策定完了の予定で動いています。海岸線のある和田地区と内陸平野部の磯部地区では、かなり地域特性も違い、同じ内容にはならず、それぞれの特性を生かした計画づくりになってきています。すでに来年度の策定支援依頼もいくつか入ってきており、少しづつですが福井県内でも広がり始めたと感じています。

 

時間と手間を惜しまないで

 内閣府のホームページには地区防災計画について様々な情報がアップされています。これまでに策定された計画も見れるようになっています。ただ非常に残念なことに、同じ文章の計画が多く存在している点です。

 私が支援している地域では、最短で6カ月かけて策定しています。3週間から1カ月ごとに策定委員会を開催して、ワークショップ形式でコツコツ積み上げています。しかし、この過程が重要だと思っています。自分たちで考え、自分たちで議論して、自分たちで何をするのかを決めるだからこそ、みんなで計画の実行ができると、私は考えています。ひな形をコピーして作るのは、簡単で時間も費用もかからず楽でしょう。しかし、この地区防災計画制度の目的は、計画を作成するプロセスに大切な物があると思います。

 



防災遺構

 

前々から一度でいいから行って見たかった、大野市黒谷の「防雪壁群」と南越前町赤谷の「砂防堤群」へ行ってきました。

 

大野市下黒谷の防雪壁

この地域では1927年(昭和2年)2月に、7m以上積もった雪が雪崩となって2度にわたり襲い、3棟を圧し潰し8人の命を奪いました。その悲劇を繰り返さないために、高さ11.5m・長さ250mの巨大な防雪壁が築かれました。何気ない山間の集落にこつ然と現れる巨大コンクリート壁は圧巻です。大きさは、奇しくも昭和の三陸地震(昭和8年)の後に築かれた、岩手県田老町の津波防潮堤とほぼ同じ大きさです。

南越前町赤谷の砂防堤群

南越前町古木を流れる赤谷川に、明治30年に石積堰堤7基と土積堰堤2基が築かれ、今も土砂災害防止機能を発揮しています。現在は国の登録有形文化財に指定されています。

 


私たちは

人が死なない防災を目指して

私たち「まちの防災研究会」は

災害から大切な命を守るために 

一人一人が 地域が 社会が

どのようにして災害に備えることが大切なのかを研究し

自分の命は自分で守ることについて

となりご近所で守りあうことについて

子どもやおじいちゃん、おばあちゃんを守ることについて

一人でも多くの方々に話しかけ

少しでも災害に強い社会になるように

みんなの笑顔が守られるように

そんな願いで活動しています

  

地域の防災力とは

これまでの防災活動の主体は行政が担ってきました。しかし、行政だけの力では大切な命を本当に守ることが出来ない。地域の住民自身の力が重要と、認識されるようになってきました。もし災害が起きた時の為に、平常時からの防災対策を進め、発災時の対応力を高め一人でも多くの命を守ることのできる力が、地域の防災力です。 



災害から命を守るために

災害から命を守る3か条

 

過去の災害などを調べていくと

災害から命を守るために非常に重要なポイントが見えてきます。

それがこの3ヶ条です。 


甘く見ない

「大丈夫だろう」「何とかなるのでは・・」などの楽観的な心理(正常性バイアス)が、逃げるタイミングを逸したり、災害への備えを怠ることとなり、それが被害へとつながっていきます。
東日本大震災でも、防潮堤などへの過信が避難行動の妨げとなってしまったり、津波ハザードマップが「避難しなくてもよいエリア表示」となってしまい、「うちは大丈夫だ」と避難行動を止めてしまった。
また、毎年台風や豪雨時に、危険だと承知しているにもかかわらず、田んぼの水や堤防へ水位などを見に行き、命を失う被害が発生しています。
これもやはり「あまく見ていた」としか言いようがありません。
災害をあまく見ないなめてかからない、災害に対しての畏怖の心が重要です。

正しく学ぶ

災害はそれぞれ特性を持っています。直下型地震とプレート型地震、ゲリラ豪雨に梅雨前線等による豪雨、台風や竜巻など、災害を引き起こす自然現象は様々です。それらは、それぞれ特性があり、当然に対応方法や注意点も異なってきます。
そんな様々な災害に立ち向かうためには、それらを正しく学び、適した備えを進めていくしかありません。
しかし、市町村の防災に関するホームページや防災パンフレットなどを見ると、「水害時に行動できる水深。男性70cm、女性50cm」などとなっているものがおおく存在しています。実際の水害被害は、このような水深の中で、避難行動をとった方々が殆どです。水害時の「水の動きの特性(実際の災害現場)」を正しく知っていたならば、そのような数字は決して出ないはずです。
「行政が言っていること」イコール「全て正しい」には決っしてなりません。その意味で「正しく学ぶ」なのです。

つながる

災害発生して、やっぱり頼りになるのは地域のつながりです。
発生直後、行政機関は動きは弱くなります。それは仕方のないことで、そのためにも自主防災組織などができ、地域で命を守りあう活動が大切なのです。
そのためには、平常時からつながりを作っておかなければなりません。要援護者対策も、このつながりが全てです。何処に誰がいるのか、何が困るのか、などを普段から知っておかないと、いざという時に助けることなどできません。

以上の3カ条を基本に災害に備えることが、命を守ることに繋がります。