水害・土砂災害について

この簡単に見える言葉ですが、これが如何に難しいことなのか。ここで完全に解説することは無理なので、基本的考えや方向性などについて説明します。

 

■「安全な場所」とは、当然被害にあわない場所です。しかし、その場所は災害の種類や規模、季節、時間帯でも変わります。単純に水害ならば「高い場所」となりますが、何m以上必要なのか、そこに移動できるのか、深夜でも入れるのかなど、単純には決定はできません。広島市で起きた土砂災害でも、自治会集会場へ避難したが鍵が開いておらず軒先にいたが、その建物自体が土砂に流され死者が出ています。東日本大震災でも多くの津波避難場所が津波にのみこまれ、多くの犠牲者を出しています。津波高データの設定に問題があったこともわかっています。そのため「安全な場所」の選定には専門的知識からの意見も必要になります。災害対策基本法では「市町村長は災害種別に適切な緊急避難場所を指定しなければならない」と2013年に法改正されました。しかし、このような点から場所の選定が難しく、全国で31%しか選定されていません。しかし、「選定済み」としている場合でも、「確実に安全な場所」という視点からは疑問点も多いと考えられます。福井県は100%選定されていると報告していますが、実際には公民館や小学校に加えて、他の公共施設をプラスしただけで緊急避難場所としているケースが多くあり、「確実に安全な場所」の選定には至っていない言えます。まだ決まっていない自治体は、これから広島市土砂災害での知見も加えて、緊急避難場所の選定作業がなされるでしょう。既に選定されている場合でも、今一度見直しを図ることが大事ではないでしょうか。

■「安全な段階」とは、「発災に至る前に避難を完了できる時点」をいいます。

台風災害に関しては気象予報能力の発達により、かなりの精度で危険に状態になる時間帯が予測されるようになりました。そのため安全な段階の把握は可能な災害ともいえます。

しかし、突発的な豪雨災害に関しては予測が非常に困難なのが現状です。そのため豪雨による浸水・土砂災害に関しては予測困難(不能ではない)な災害となります。その点から行政等からの避難の情報を待っての行動では安全な段階を逸している場合もあり、住民自身が危険を察知(予測)し、安全な時点での避難を実行することが重要になります。住んでいる場所(地域)のリスクを理解し、降雨情報や降雨予想など気象情報に注意し、安全な段階の判断ができるようになる必要があります。しかし、住民すべての人がというと現実的には無理でしょう。そのためにも自主防災組織などが中心になり、安全な段階を判断し、住民を安全な場所に避難させる仕組みづくりが必要になります。

■「避難する」とは、逃げ方(避難方法)のことを意味します。

土砂災害から逃れるために逃げ方、津波から逃れるための逃げ方、内水氾濫からの逃げ方、これらはすべて逃げ方が変わってきます。また、安全な段階を逸した場合の逃げ方も当然に違いがあります。これに加え、障害のある方などの自力避難が困難な方の逃げ方も違いがあります。これらを含めて「避難する」を考えなければなりません。

安全な段階か否かの2通りに分け、災害種別、住んでいる場所のリスク別、要援護者対応を整理していかなければなりません。

以上が「安全な場所へ 安全な段階で 避難する」の基本的考えです。

内閣府は2014年4月に「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を各市町村に通達しました。そのなかの「1.1市町村の責務」にこうあります。「市町村長は、災害が発生する恐れがある場合等に住民が適時的確な判断ができるよう、一人ひとりの居住地等にどのリスクがあり、どのようなときに、どのような避難行動をとるべきかについて、日ごろから周知徹底を図る取り組みを行うことが重要である」としています。また、「ゲリラ豪雨のように極めて短時間に局所的な大雨で発生する場合が多く、避難勧告との発令は困難である場合が多く、基本的には各人の判断で危険な場所から退避することが重要である」としています。

「ようやくか・・」という感もありますが、まさにこれが「安全な場所へ 安全な段階で 避難する」ことです。しかしながら、このガイドラインが出されて半年たちますが、取り組みを開始した自治体を目にしたことはありません。どうか待っていずに、自ら対策を考え実行されることを望みます。わからない点などは当会に聞いていただければ協力いたします。

     命を守るには総合的能力が必要だ!

 これまでは、住民の「依存型避難」または、行政の「過保護型避難」だった。「避難しろといわれたら避難する」とか「避難の情報が出たら避難してください」とかの、行政からの避難情報を中心に考えられていた。しかし、災対基本法も改正され、避難の判断は「住民自身」に求められるようになり、避難の方法も住民自身の判断が主体となった。では、どうすればそれらの判断ができるようになるか。それが、上記の「避難力」である。

     新しい避難の考え「駆込み避難」!

陸上で100mを早く走るためには、「筋力」さえあればよいのか、答えはNOである。「瞬発力」「反射神経」「耐久力」「体力」など多くの能力が総合的に備わって始めて早く走ることができる。「避難」も同じように総合的能力が求められる。第1に「認知」、正しく自分の住む地域のハザードを知り認める。第2に「情報」、気象情報や避難情報など判断に必要となる情報を理解する。第3に「作戦」、どう逃げるのか、どこへ逃げるのかなど行政から指定された避難場所だけではなく、真に緊急時の避難方法としての「駆込み避難」を新たに加えて考える作戦。第4に「判断」、様々な気象変化や情報などから、適切な判断タイミングと、的確な避難方法の指示などの判断力。これが総合的な能力「避難力」であると考え、各項目の到達度によりポイントを付加するようにした。